経済制裁はロシアの戦意高揚に協力している

ロシアへの経済制裁は、ロシア国民の戦意高揚に貢献している。経済制裁はロシアの国家や軍隊に対して、なんらの影響も持たない。ロシアのような資源大国、食料大国にとっては、輸出品の多くの資源やエネルギー食料などを海外に流出しないことは、かえって戦争の継続を有利にするだろう。ロシアは、仮に経済制裁を受けなかったとしても、おそらくロシアのほうから、進んで天然エネルギー資源や食料などの輸出を禁止もしくは制限をおこなったにちがいない。それで困るのは西側諸国だ。ロシアが外貨獲得を減らして困る以上に、遙かに西側諸国などロシアに敵対する国々が受ける打撃のほうが大きいからだ。しかしその場合、ロシアの国民生活が圧迫されて、ロシア国民は輸出の禁止なり制限なりをした政権側ーーつまりロシアの政府やプーチン大統領を恨むことになるだろう。しかし欧米をはじめ日本も含めて、ロシアを非難する西側諸国の側から「制裁」という理由や名目で「意図的」にロシアが輸出をすることが出来なくなってしまう、さらに通貨や金融の面までが凍結や制約を受けて、それによって国民生活が疲弊していけば、それは「ロシアに経済制裁をした国々のせい」ということになる。ロシア国民にとって、交戦当事国でもない第三者的な国が余計な干渉をして、そのためにロシア国民は苦しめられている、ということになる。これこそプーチン大統領が願ってもないことであり、なんのことはない、各国は一見ロシア軍やプーチン大統領に打撃をあたえているつもりで、その実はロシア国民の団結心と愛国心に火をつけたのだ。それどころか、それは「こんな苦しい生活と戦いを強いられるのも、さっさと降伏をしないウクライナが悪い」という思考に結びつき、その憎悪の感情はウクライナに向くであろう。
ロシア国民にとって「制裁」は「いじめ」である。正統な理由をつけた「堂々たる」史上最大の「いじめ」である。いじめられた者は、その怒りの矛先を、より力の弱い者に向ける。すなわちウクライナに恨みの矛先とエネルギーを傾ける。ウクライナ国民を苦しめているのは西側諸国である。自分たちはいい顔をして、ロシア国民に苦痛を強い、そのロシア国民の恨みをウクライナ国民にぶつけさせ、より一層ウクライナ国民を苦しめる。しかも経済制裁によって、制裁をする西側の国民も打撃を受ける。
そこまでして「制裁」にこだわるのはなぜだろうか?いちばん素直に考えれば「ロシアの弱体化」を狙ってのことだろう。このまま戦争が長期化するほど、ロシアは疲弊化していく。アメリカや西欧は、直接に傷つかずにロシアに大きな打撃をあたえることができる。ウクライナを犠牲にすることによって、ロシアをますます消耗させ、道徳的にも悪魔のような帝国というレッテル貼りが可能になった。もはやロシアを信じる国も国民も全くないだろう。これが西側諸国の目的であり、その目的はほぼ達成された。
ロシアの物心共の弱体化は、中国の台湾侵攻に大きな障壁となる。背後にロシアという友好的な大国があってこそ中国は台湾に対する軍事政策を有利にできる。中国にとって台湾は独立国家ではなく、あくまでも中国の領土の一部だという認識だ。ロシアのウクライナ侵攻が失敗することで、中国は軍事的なことのみならず世界世論という外交上でも、負のモデルケースとなり、中国の台湾に対する攻勢的な姿勢は鈍ることになるだろう。
それによって安全保障上の最も利益を得るのは、日本や東南アジアそして、アメリカである。間接的にロシアは、大いにアメリカを安心させたことになる。アメリカはウクライナの人々を犠牲にすることによって、中国と台湾に関する問題で断然に有利になった。つまりアメリカは軍事外交上で有利になるために、ロシアのウクライナ侵攻を黙認した。ロシアが実際にウクライナ侵攻をおこなう以前には、マスメディアの報道は、例外はあったかもしれないが、基本的にはロシアの侵攻はまずないと報道していた。これがプーチン大統領を侵攻に踏み切らせたのだと思う。西側諸国をはじめ世界はロシアが本気でウクライナを攻略するとは思っていない。さらにいえばロシアがウクライナに侵攻をしてもアメリカをはじめ国際社会はさほど大きな抵抗をしないだろうという甘い期待をプーチンに抱かせた。ロシアにウクライナ侵略をさせたのは世界のマスメディア報道であり、それを工作したという証明はできないが、あえて黙認することによって、結果的にロシアを暴走させるように仕向けたのはアメリカの陰謀だ。冷戦以来、ソ連の崩壊後に残ったロシアという半帝国的な国は、アメリカからみれば、しょせんソ連の残存物でしかない。アメリカはこれで名実ともに、ソ連に「とどめ」を刺すことになる、すくなくともアメリカはそれを望むだろう。ー-これが政治だ。とくに国際政治というものの実態だ。
アメリカの安全と勝利は、ほぼ確定したといっていいだろう。ー-ウクライナの人々の生命を奪うことによって。