最初の権威主義の出逢い「鼻」

「鼻」といっても芥川でなくゴーゴリーのほうだ。小学校を卒業して間もなく中学に入学する頃だった。
ジュニア版のゴーゴリー「鼻」を読んだ。主人公は役人だが8等官という階級だった。私はよくわからなかったが、その主人公は自分が少佐と呼ばれることをコノンダと書いてあった。何のことか私にはわからなかったが、ずっと後になって、8等官という等級が軍人だと少佐に相当することだと知った。小説の主人公は、文官だったが、軍人に合わせると少佐になるが、ただもし実際に文官が軍人として働く場合には、等級は三階級くらい下がってしまうとのことだ。めんどくさい話だが、ようは同じ等級でも文官より武官(軍人)のほうが格が相当に上ということらしい。
で、主人公は、文官なのに武官だと少佐クラスだということを言いたくて、周りから少佐と呼ばれたい…そういう話だ。
どうでもないようなことをそこまでこだわること、それが私が「人間、とくに男はこんなに地位や権力にこだわる」ということに触れた最初だった。
ゴーゴリーはロシアの作家だが、生まれはウクライナだ。それはいまのウクライナ=ロシアの戦争とは関係ないが、しかしなんとも表現しきれない皮肉な感覚をいだく。