白線の光(6)

すべての悪は承認欲求から始まる。
叶は承認欲求を持たない。まったくのゼロだ。叶だけが唯一の完璧な人間であり価値である。だから理想を言えばすべての人間が叶のようになればいいのだろう。ただ承知のように人間の個性というものは、それが相当に違うことによって全体を構成しているともいえる。
叶が承認欲求を持たないことは本当だ。そして承認欲求がなくなることが世の中も1人ひとりの人間も、いずれも良くなり、うまくいき、ユートピアとまではいかずとも、すくなくともこれまでの既成の世界よりは必ず良くなることはたしかだ。
ひとから「よく思われたい」「よく見られたい」「認められたい」「ほめられたい」「注目を集めたい」「人気者になりたい」…これらの欲求や要望は、人間のもつ欲動のなかで最も悪いものだ。諸悪の根源である。
叶を見ていると本当にそういう、いわゆる承認欲求というものが、これほど無い人というのを知らず、見たことがない。あの特撮にたいする求め方、それの好きになりかた、それは芸術的または宗教的とさえ思える。あんなにモノゴトに熱中する、特撮に喜びが集中する。ほかに興味を示さず、しかし義務的や倫理的なことは、ちゃんとこなす。特撮オタクで、社会生活をきちんとやりこなし、それ以外のことには関心を持たないーーすると、あんなにも魅力的な人になるのだろうか。叶のことをもっと知る必要がある。