トクサツガガガの巧みな造り

トクサツガガガを観ると見せ方の巧みさを感じる。物語の焦点を仲村叶という1人の主人公に絞り、叶の気持ちと行動を通して周囲の人々と叶とがどういう関わりを持ち深め、さらにその関わりを広げていくかということが丁寧に描かれている。
そこには余計な事件や場所や人物は出てこない。もちろん一概には言えないが、わりと多くのドラマでは、必ずしもその場面は必要だろうか、というものが当然のように出てくることが多い。たとえば残業で遅くなり終電に間に合わず、やむなくタクシーを拾って帰るとか。あるいは仕事なり私生活なりで疲労が重なり、倒れて救急車が呼ばれ次は病院のベッドで点滴を受けている場面とか。また或いは自宅で友人と大事な話をしているところをセールスマンの営業に邪魔されるとか。あと格別にそれが大切な場面かどうかは分からないが、喫茶店でコーヒーを飲んでいるところ…等々…もちろんそれらの場面があって悪いわけではないが、なければ無いでべつに話の本筋や本題には差し支えがない。どうしてもそこは必要だったろうか?そういうシーンが全く無いのだ。
たとえばトクサツガガガでも、主人公の叶がレストランでドリンクバーを注文する場面がある。しかしそれは叶が友人と語り合うためだ。漠然と喫茶店にいるといったシーンではない。叶が電車に乗っているところもある。でもそこで叶は、その後に大切な関わりを持つ人間と出逢うことになる。単純に、ただ日常の通勤の風景を描いているようなシーンとは違う。或いは叶が職場で昼食を食べている場面がある。でもそれは叶が節約をして特撮のDVDを買いたいために弁当を作って来ているということを描くためだ。とくに理由もなくただ昼食のシーンを描いているわけではない。
そういうふうに、トクサツガガガは、徹底して物語の中央テーマだけに沿って各場面が作られている。だからとても観やすくて分かり易い。叶をはじめ、叶を取りまく人間たちの気持ちと行動のみを丹念に丁寧に描いている。ーこれほど焦点が絞られた丁寧な造りの作品を今までに観たことがない。