公家物語(13)

「バカめーッ!」「とんまめーッ!」「クソったれめーッ!」
公家はヘチマを思い切り床に叩きつけた。床がバンバン鳴った。
「貴様だ!貴様が悪い!貴様!貴様!貴様!ーッき・さ・ま、が悪いーッ!」
叩きつけたヘチマを公家は両手でねじりきった。「クソ!」「クソ!」…ぶっちぎれたヘチマをべちッ、べちッと公家はまた床に叩きつけた。叩きつけた。叩ッつけた。
「貴様なんか、貴様なんか!こうしてやる」「クソったれ、クソったれ!どクソッたれが!!」。公家は足でひとつのヘチマを踏みつけ、ぐしゃぐしゃに踏みつけ、べろんべろんになったヘチマを鷲づかみにすると、それを力一杯握り潰してた。
「うヌ、貴様なんか、こうしてくれる」「貴様だ、貴様だ、貴様のせいだ!「クソめ!クソめ!消えろ、消えろ、消えてなくなれ」
公家はぜいぜいと息を吐くと、濃い緑色の物体を睨んだ。すこし目がかすんだ。突然、カラカラと笑い声が聞こえた。見ると潰れたヘチマがもこもこと盛り上がり、それが何十倍にも巨大になっていった。
「言った!」「ちがう!」「ちがう!」「貴様だ!」「貴様が言った!」
「ちがう!」
「ちがう!」
「ちがう!」
ち・が・う…
ヘチマの壁が公家を押し包もうとしている。
「ちがう!」…公家は絶叫した。
ワぁーッ、と言って公家はヘチマの壁を両手で破った。またカラカラと笑い声がした。床に紫色のコールタールのようなねっとりとした液体が染み渡った。液体は公家の全身を被い、ぐねぐねと揺らめいた。公家は紫色から深紅に、そして再びドス黒いというというのにちかい濃緑色に変わった。緑だ!地の底から、天が割れるような声が聞こえた。
ちがう!…公家は叫んだ。