公家物語(5)

いつの時代でも事務仕事はつまらんな、公家は申請書に領収書を置き、その上から振り込み明細を乗せた紙にパンチ機で穴を開けながら思った。申請書には、申請者の氏名と金額と振り込んだ日付とが乱暴な字で書かれている。備考欄に支給金の内容が簡単に記してある。
式部省の人事に関する査定とか意見書などの書類を整理していたのとあまり変わらない。式部省と聴いても令和の今の人たちは解らないのが普通だろうし、せいぜい紫式部和泉式部で、かろうじて「式部」という文字を連想するくらいだと思う。
その頃の公家は、公家社会のなかでは最底辺のギリギリ公家身分に引っ掛かっている「公家」を名乗れる、すれすれのところにいた。もっと下の役職や身分はあるが、そうなるともう役人ではあっても公家の範疇(はんちゅう)には入らない。
いずれにしても事務作業というのは、時代を超えてあまり変わり映えがないということだ。世の中というのは、案外そういう部分で動いているのであろうか。どちらにせよ源氏物語に描かれるような絢爛たる貴公子たちの世界のイメージとは無縁であることはたしかだった。