公家物語(4)

寒い…公家はヒーターに足を投げ出して思った。千年前の京の街のドッシリ寒気に比べるとこれでもまだ緩いほうとは思いながらも、しかし慣れは恐い。この時代の東(ひんがし)の都、東京に居ると、いつのまにかそこの気温や環境に慣れてしまう。気づいたらそれが当然のように感じている自分がいる。公家なんて、とくにそういうものだと思った。気位高く頑固だと思われがちな、またそれは決して間違ったものではないとはしても、ものごとはそう単純な面だけではない。上品ぶったお公家さまは、その一般的なイメージとはべつに、案外その実態は、軽薄で-よく言えば臨機応変な-その場その場で自分を変えていく便利な存在なのだった。
俺は存在しているだけだ。誰にということなく公家は言った。
公家は赤いダウンを羽織った。「仕事に行かねばで、おじゃる」。公家は突然おじゃる言葉を呟いた。もっともらしく、そう言ったのであった。