キングの斧(1)

「仮面城の秘密」というジュニア向けの小説がある。もう手元にはない。遠い昔のポプラ社の名探偵シリーズという中の1冊で著者は横溝正史。僕がおそらく12歳の終わり頃、1969年の夏頃に読んだものだ。このシリーズは、たしか全15巻で、そのうち8冊が江戸川乱歩で2冊が横溝正史、あと2~3人の作家のものだったかと思う。
その「仮面城の秘密」は、とくにすごく面白かったというわけではなかったが、印象に残っているのは、打ち付けられたトランプのカードだった。家の塀だったか、近くの木の幹だったか…そのへんの記憶はぼんやりとしているのだが…とにかく釘かなにかでトランプのカードが打ち付けられている。そのカードはダイヤがキングだった。
ダイヤのキング…それは不思議だ。ほかのカードのキングは、剣を持っている。剣の先を下に向けているのや剣を振り上げているのや、細かい図柄などはトランプを売っている会社やメーカーでも違うかもしれない。ダイヤのキングがみな同じ物や道具を持っているか、ポーズが同じかも判らない。ただ、僕の記憶のイメージでは、ダイヤのキングが持っているものは「斧」である。ダイヤのキングは斧を振り上げているーそれが自分にとってのダイヤのキングなのだ。
まあ王様が樵のようなことをするとは考えにくいので、たぶん戦斧であろう。そこに深い意味を探ろうとはしないが、とにかくほかの3人とは違う。なぜだかそれが、とても気になり、そしてとても気にいった。だからダイヤのキングはよいのだ。格別な意味はなくても、特別な印象があるからだ。